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「セピア色の吉野川」展 観てきた


過日紹介申し上げました、島内英佑さんの写真展「セピア色の吉野川」を新宿ニコンサロンにて観てきた。(写真展は、4月5日月曜日まで)

セピア色の吉野川展

この写真展は、島内先生が卒業制作として取り組まれた吉野川源流から河口までの撮影をスタートに、その20年後、そこからさらに20年後、そして現在と4回にわたる撮影の、定点記録でもある。

島内英佑写真展 セピア色の吉野川

案内DMでは、長沢ダムの50年前と10年前の写真を並べたモノを使われていたが、郵便配達夫が歩いて行くこの写真は島内先生のお気に入りだそうで、「その後」を撮りに行くに際してだいたいの配達予定時刻を調べてから行ったという凝りようである。

実際には、50年前、30年前、10年前、現在の4枚組。50年前は無舗装道路を徒歩で郵便配達していたものの、30年前には道路は舗装され、郵便配達はバイクになり、住宅は2階建てとなり、現在は無人化された変電施設住宅には配達される郵便物は無いらしい。そんな歴史の流れを一目で表している。

観るのは一瞬だ。でも、撮影には50年もの年月がかかっている。

観覧後、写真集「セピア色の吉野川」出版記念パーティーに招かれていたので行ってきた。そこで来賓が語った祝辞がちょっとおもしろかった。

「たいていは、自分の故郷の写真展は3度やったら『もう、いいかな?』ってやめちゃうものだが、4回写真展をやって3回出版するのは珍しい」

島内先生と

確かに。しかし、島内先生ご自身は、また10年後くらいに5回目をやってみたいと目論んでおられるようだ。卒業制作として取り始めた1回目から数えて60年。干支は5周。「もう、引退しようかな」なんておっしゃらないところに感動した。

そのような写真の良さは、他の方々がたくさん語ることと思うので、これ以上は述べないけれども、もう一つ違う視点から気がついたことがあった。

年を経るごとに、レンズが広角になっていく。これは2枚の写真を見比べただけではわからないことだけれども。

50年前も現在も、標準レンズといえば35mmか50mmくらいということで、それほど変化は無い(島内先生が50年前にどのようなカメラをお使いだったかはわかりませんが)。ところが、広角レンズは、そのレンズを磨く技術などの理由もあろうかと思うけれども、28mmといえばもう広角レンズだ。それより広角となると、極端な魚眼レンズなどを除けば、20mmくらいしか存在しなかったと思われる。

現在では、いろいろな材料や技術などの質が向上したため、ズームレンズでも18mmなど珍しくなくなった。

というわけで、昔は狙った被写体を見せていた写真から、今では狙った被写体と、それを包括する背景までよく観ることができるような画作りが容易くなった。

つまり、吉野川の時代の流れを観ながら、撮影機材の発展までも感じさせるのです。

それから、写真家協会所属の島内先生は旅行作家協会のメンバーでもおられます。そして、旅行誌などにもたびたび寄稿されており、この度発行された写真集も、ただ「きれいだなー」って眺めるだけの写真集ではありません。

セピア色の吉野川 本文

写真を見て、文を読むことで、より深く吉野川流域にあったことや時代が理解できる、そんなジャーナリズム的な写真集となっています。将来、この本を手に取った若者が、さらに100年後とか200年後とか、続きを撮り続けてくれたらそれは貴重な文化資料となるかもしれません。

そういえば、他の方の祝辞には、こんな台詞もありました。

「過去の記憶、現在の記録、未来の予感。それが集まって、文化」

なるほど。島内先生のパーティーに集まるような大物たちの言うことは、深い。

なお、記事掲載時にはまだAmazon.co.jpでの取り扱いが無いようなので、お近くの書店か、発売元((株)高知新聞企業)にお問い合わせください。

セピア色の吉野川

  • 人と風景・定点観測50年
  • 島内英佑
  • 高知新聞社
  • ISBN978-4-87503-420-9
  • A5サイズ、345ページ

今から島内先生を超えるのは無理なのはわかるのですが、ここまで見せられると写真家として考えさせられます。いやいや、島内先生はジャーナリストでありフォトピエールはコマーシャリスト(?)なので、向かっている方角は違います。でも、ココロを突き動かす何かがある。

とりあえず、こんなところから始めてみるというのもアリか、と思った寒い春の日。


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